第7章 【越えられないとは限らない】

「ええ。俺今んとこまだベンチ入りすらしてないし正直実力にも自信なくてこのままやってもなあって思い始めてまして。で、やる気のないままいても他の邪魔になるしと思って退部届け持って主将のとこ行ったらですね。」
「おう。」
「あのウヘペロ野郎、受け取り拒否しやがりました。」

志野のさりげないボロカス振りに思わず木下はブーッと吹く。

「あ、いけね何かはみ出た。」
「いやお前はみ出るどころじゃなかったぞ。つか受け取り拒否てマジ。」
「マジです。絶対ヤダ認めないの一点張りでして、風任せの柳みたいな面して意外と頑固っていう。」
「よくそんな表現思いつくな。」
「ともかく何を言いたいかと言いますと」

志野は言った。

「まだわからないって事です。貴方なら尚更。」

じっと木下を見つめる志野の目は真面目だった。

「お前、いい奴だな。」
「さてどうでしょう。」
「あの及川さんが抜けるの許さないって言ったのわかる気がする。」
「そうでしょうか。」

そうだよと木下は言った。

「何かさりげに支えてくれそう。」
「その辺りの人材も既に揃ってる気がしますがね、矢巾さんも国見も金田一もいるし。しかし」

ふと志野はここで一旦言葉を切った。

「そういえばあのウヘペロ前主将が言ってたの思い出しました。」
「何だ。」

尋ねる木下に志野はゆっくりと思い出しながらといった風に答える。志野曰く及川はこう言ったらしい。

"ちょっと志野ちゃんやめてくれる。お前までそうやって俺には無理ですみたいな事言ってるようじゃ凹ましたい相手をどうしてくれようって必死の俺の立場なくなっちゃうから。"

「ビビりましたよ。」

志野はクックックッと笑う。

「まさかベンチ入りすらしてない約1名にあの人がんな事言うって思わなかったんで。」
「俺も聞いててビビった。つかうちの影山が怖いっつーだけあるわ。」
「ああ金田一らと同中の語彙に難がある、いや何でもないです。」
「あのさ、さっきからお前隠す気あんまなくね。」

志野は目をそらしてごまかそうとし、木下は思わずごまかせてねーからっと平手ツッコミを入れた。