第7章 【越えられないとは限らない】
「まあそれは置いといて。」
木下は自分の中の整理も兼ねて言った。
「何かお前凄い。」
「そうかなぁ、普通だと思いますが。」
「普通って何だっけ。」
「木下さんはなかなか辛辣ですね。」
「それも置いといてお前やっぱ凄いって、だって青城んとこのリベロってあの人だろ。その後釜って。」
「そう言っていただけるのは嬉しいんですがどうも実感がなくて。他に人材がいるはずなのにってのがどうにも。」
いいじゃんと木下は自嘲気味に呟いた。
「俺はひょっとしたら3年になっても試合に出る事ないかもしんねえから。」
「どうして。」
嫌味ではないのだろうがどうしてもへったれくれもと木下は思う。
「レギュラーは後輩とか同期のすげーのいるし、普段控えでも何気にどっかで入ってる人も多い。勝ちに必要ってされてるからこそそうなってる訳だけどつまり逆を言や俺は」
一瞬木下は続きを言う事をためらった。これを言うのは少し辛い。
「俺はきっといてもいなくてもどっちでもいいんじゃないかなって思う。」
「はたしてそうでしょうか。」
「え。」
首を傾げる志野に木下は聞き返した。
「俺、いっぺん試合終わった後にそちらのチームの皆さんが集まってるとこ見かけた事あります。あくまで外から見た感想ですが、烏野の皆さんはきっと1人でも欠ける事を良しとしない。きっと木下さんがいなくなったら皆さん顔真っ青にして探し回ると思いますよ。」
ニヤリとする志野に木下はそうかなと躊躇いがちに呟く。
「特にあの主将さんと、ええと、6番の方あたりは慌てるでしょうね。」
「なかなか細かい事見てるんだな。」
「みんな仲良さそうなのがちょっとうらやましかったもんで影からついガン見してました。」
「ストーカーかよ。よし、今度みんなに言ってやろ。」
「それは勘弁っ。」
志野は騒いで一旦ふうと息をついた。
「ご参考になるかわかりませんが、俺実は3年が引退する前に退部しようとした事があるんです。」
「そーなのか。」
木下はマジマジと志野を見つめる。そんな風には見えなかった。