第7章 【越えられないとは限らない】
烏野高校男子排球部2年木下久志がその少年と会ったのは偶然だった。
「お。」
1人で帰っていたらバレーボールが転がってくる。
「すみませーん。」
拾い上げたら向こうから少年が1人タッタッとかけてきた。
「ほい。」
「ありがとうございます。」
バレーボールを渡してやると少年は木下をじっと見てきた。
「あ、あの。」
少し戸惑ったように少年は言う。
「もしかして烏野のバレー部の方じゃありませんか。」
「え、あ」
一瞬木下は言い淀んだ。まさか自分を見てそう問うてくる他校生がいるとは思わない。
「ま、まぁ、そーだけど。」
「やっぱり。あ、初めまして、俺青葉城西の志野健吾です。1年です。」
青城、木下は思わず反応する。
「一応リベロです。」
「一応って。」
「渡先輩の後釜にされかかってるんですが今後の状況はまだわかんないので。」
「いや何気にそれすごくね。」
試合で見た青葉城西のリベロを思い出しながら木下は呟く。あのレベルの高いリベロの後釜にと考えてもらってるって相当じゃないのかとぼんやり思った。
「他にもっとうまい奴がいるはずなのでどうなるやらってとこです。」
志野と名乗った少年はさらりと言う。
「そ、そっか。あ、俺は木下久志。2年でウィングスパイカー。」
「よろしくお願いします。」
「あ、ああ。」
すっと当たり前のように手を差し出す志野に変な奴と木下は思う。
「よく俺が烏野ってわかったな。」
ポツリと言う木下に志野はああと言った。
「試合の時見かけたので。」
「俺控えだぞ、それに今んとこいっぺんも試合出てないし。」
「でも大抵いらっしゃるでしょう。」
「何で知ってんだよ。」
「うちが出てない時でも時間があれば他所の試合見に行ってるので。」
「暇なのか。」
「この顔が彼女持ちに見えますか。」
「自虐かよっ。」
思わず突っ込む木下に志野はこれは失礼と呟く。やっぱり変な奴だと木下は思った。あの及川はこいつをどう扱ってたんだろうとすら気にしてしまう。烏野ならとっくに主将の澤村にとっ捕まって怒られている所だろう。いやこんな口調の奴だ、その前に月島と一発やらかす可能性も考えられる。勝手に妄想しといて木下はおーこわと思った。