第6章 【漫画サークル切込み隊長 その3】
「木下。」
気遣うように成田が言うが
「何なんだよ。」
木下は唸っていた。
「前もそーだったけど言うだけ言いやがって俺の話は無視かよっ。」
俺は別に何も思ってないし何も言ってないのにと腹の底から熱くなってくる。かなりカッカしていたのが伝わったのか成田に肩を掴まれた。
「もう行こう、遅れる。それに」
成田は穏やかに言った。
「真島さんも多分今は落ち着いてないだろ。明日来ようぜ。」
木下は渋々頷いた。
それでも木下は無意識のうちにイライラしていたのだろう、一挙一動がいつもよりどこか雑になっていた。
「木下さん、何か怒ってる。」
部室にて鞄をやや乱暴に棚に入れる木下を見て日向がビビったように呟いている。
「影山、何か知ってるか。」
「知らねーよ、何で俺がわかるんだよボゲ。」
「例の漫画サークルの人と喧嘩でもしたんじゃないの。」
月島が当たらずといえど遠からずのことを言い、山口は心配そうに木下の背中を見つめる。
「何か悲しそうなんですけど、その、どうかされたんですか。」
山口が成田にこそっと尋ねた。成田はああちょっとね、と呟く。
「漫画サークルの人とすれ違いが。」
「やっぱりですか、木下さんはどうして気にするんです。」
月島が鬱陶しそうに聞こえる言い方をする、そのつもりはなかったのだろうけど。
「俺もよくわからないけど何か気になるみたい。で、さっきちょっと漫画サークルでゴタゴタしてるとこに居合わせてさ、こっちは拒否してないのに向こうが拒否するって決めつけてる所に怒ってる。」
「木下さんにしては子供ですね。」
月島はフンと鼻を鳴らした。
「でもどうせ明日も行くんでしょう。」
「多分な。」
木下は成田達がそんな会話をしている間、着替えながらもぼんやりとしていて田中にお前まで俺のジャージ取り違えんなよと突っ込まれていた。
もちろん木下の異変は他にもバレバレである。
「真島さんと喧嘩したのか。」
練習の間の休憩時間、即刻切り込んできたのは縁下だった。
「いきなり何だよ。」
「珍しく機嫌悪い顔してるから。1年達が心配してるぞ。」
「それで何でいきなり真島なんだよ。」
「他に思い当たる節がないから。」
木下はちぇっと呟くが縁下に隠し通せないのはいつもの事なので渋々事の次第を話す。