第5章 【漫画サークル切込隊長 その2】
幸い部活には充分間に合った。が、
「何で笑ったんだよ。」
木下はムッとしてまだ笑いたりなさそうな成田に言った。
「だって、無駄に照れてたから。」
「無駄とか言うなしかも照れてねーしっ。」
「既にそれが照れてるって。」
「やめろって。」
木下は言ってこそっと後ろを振り返り田中や西谷に聞こえていないか確かめる。幸い1年の日向や影山をいじるのに忙しいのか聞こえていないようだ。
「田中とやりあった時は正直ドン引きしたけど」
成田が呟いた。
「意外といい人なのかもな。」
「ああ。」
木下は頷いた。
「おい、木下。」
ここでさっきまで他と喋っていた田中がこっちを振り返った。
「何だ。」
「真島の奴がよ。」
「お、おぅ。」
自分の知らないとこで何かあったのかと木下は気にしてしまう。しかし幸い田中から出たのは思うより穏やかな話だった。
「昨日は悪かったって言ってきたわ。」
「へぇ。」
「まさかいちいちうちのクラスくるとは思わなかったからビビったわー。ま、悪い奴じゃなさそうだな。」
「田中のは習性が問題だろ。何だ、初対面なら女子も威嚇(いかく)するようになったのか。」
横で話を聞いていた副主将の菅原に言われて田中はちげえっすよと焦る。
「つか真島の場合は女子と定義していいのかっつー。」
「あ、言いつけてやろ。」
「木下待てゴルァッ。」
「誰かよく知らないけど仲良いんだな、木下。」
菅原が笑う。
「いや、俺もほとんど会ったばっかりみたいなんで別に。」
モゴモゴ言う木下に菅原はニヤニヤ笑い、また成田が吹き出す。
「何だっ久志っ、春が来やがったのかっ。」
「ちげーよ西谷、どんだけ拡大解釈すんだっ。」
「展開早いな。」
「縁下っ、わざと気配消してまでお前もやめてくれっ。て、あ。」
木下は縁下の顔を見て固まる。
「結局漫画サークルに行ったのか。」
「おぅ、無事にしてた。」
「そりゃ良かった。」
「あと、」
「うん。」
「縁下の事漫画のキャラみたいな名前だから覚えてたって。」
「困ったもんだな。今度漫画サークルんとこよるなら教えてくれ、一緒に行く。」
「いやむしろ先逃げるよう伝えとくわ。」
わいわい言っている間に主将の澤村がほらいつまで喋ってんだと声をかけてきて木下含め野郎共は一旦静かになった。