第1章 【本当は】
「でもあいつそんなひでぇ奴じゃねぇよな、むしろお人好しっつーか。お前知ってっか、あいつ本当は今週掃除当番じゃねぇのに昨日他のやつと替わってやってたぞ。」
木下はふーんと気のない返事をする。
「何だよ。」
「別に。」
木下は俯いて言った。
「あんま興味ねぇ。」
田中は不審そうに木下を見たがそれ以上は突っ込んでこなかった。
知ってるよ、と木下は思う。
本当は知ってる、真島は中学ん時からそういう奴だ。口は悪いけど根は悪くない、その辺はちょっと田中に似ている。勉強面は確実に田中より上だし顔が怖いといった感じじゃないけれど。1人でいるのはきっと不器用で友達が出来ないだけだろうなってのも何となくわかるよ。じゃあお前がなってやれよって話だけど俺は今あいつとまともに話せる勇気がないんだ。
そこまで考えて木下は内心激しく凹んだ。ただでさえ部活で何となく取り残された風を感じていてそっちも辛いのにこれは堪えた。
「ってなことが。」
放課後、男子排球部の部室にて日直で遅れている木下がいない隙を狙って田中は2年生仲間達に話をしていた。
「本当に興味ねぇだけじゃね。」
西谷夕が言う。
「西谷は単純でいいよな。」
成田一仁がボソッというと西谷は何だとっと抗議する。しかし2年の頭を張っている(無意識に)の縁下力に西谷うるさいと一蹴されておとなしくなった。
「それはともかくとして田中、」
縁下が話を戻す。
「真島さんって木下と中学一緒だったよな。」
「おう。」
田中が答えると縁下はてことは、と呟いた。
「中学の頃かもしくはもっと前に真島さんと何かあったんだろうな。」
「久志にきーてみるかっ。」
「西谷、お前ね。」
成田がため息をつき、縁下は西谷に冷たい視線を送った。
「じゃあ真島に聞いてみるっ。」
縁下の視線に気づかなかったのか西谷は怯まない。成田がよせよ、と言った。
「真島さんだって聞いて答える訳ないだろ。」
「とりあえず西谷は一旦黙ろうか。」
縁下に笑顔で威圧されて西谷はうっと唸りおとなしくなった。
「まぁ木下と真島さんに何があったのか知らないけど、俺らが迂闊に入っていっていいことじゃないと思う。心配だけど今はそっとしとこう。」
「だよなー。」