第1章 【本当は】
田中がまぁホントはわかってたんだけどよ、と言いたげにため息をついた。
当の木下は遅れて部室にやってくると田中と西谷が挙動不審で縁下に睨まれた瞬間に固まっていた為、少し困惑した。
「何かあったのか。」
成田に尋ねたが成田はさぁ、としか答えなかったので余計に気になった。
そう、木下久志は真島優子が嫌いではない。むしろその良い奴ではあるが不器用なところが時折心配になり、ろくに話しかける勇気が無いくせについ目で追ってしまう事がある。ある時誰かが言った、真島って何か冷たくねぇか。
「そんなことねぇよ。」
つい口にする木下をその誰かは不審そうに見つめた。
「あ、いや、少なくとも俺は冷たくはねぇかなって思ったり。」
まぁ別にいいけどさとその誰かは言った、何かお高くとまって絡みづれぇわ。
「だから、そんなこと、ねぇって。」
木下は小さく小さく呟いた。もっとはっきり言えない自分が嫌だった。
そんなある日、いつもどおり部活を終えて、排球部の皆と帰ろうとした時だった。ぼつぼつ他の部活の連中も帰り始めている中、グラウンドの方からボンッ、ボンッと聞き慣れたようなそうじゃないような音が響いた。
「あれ、あの音。」
後輩の日向翔陽が疑問形で言う。
「バレーボールの音。」
「外でか。」
同じく後輩の影山飛雄が首をかしげる。
「女バレかな。」
山口忠が言うとその友の月島蛍がまさかと言った。
「女バレの人がどっかの馬鹿2人みたいにしばらく部活させないって言われたんなら話別だけど。」
「おいっ、月島っ、どういう意味だよっ。」
「いちいち余計なこと言いやがって、てめ。」
「やめようよ、ね、ね。」
1年マネージャーの谷地が間に入る。
「でも本当になんだろな。」
副主将の菅原が言った途端に、いってーっと乱暴な口調の女子の声が響いて木下は戦慄した。
「おい、木下聞いたか。」
田中が言った。
「今の声真島だよな。」
「そ、そーか。俺わかんね。」
木下は言うが自分でもごまかしきれていないのがわかる。成田と縁下が心配そうにこちらを見ている。田中は間違いなく真島だと言ってちょいと見てくらぁと駆け出し西谷が俺も行くと一緒にすっ飛んでいく。縁下がこらやめろってと言ったが今回はタイミングが遅かった。