第4章 【漫画サークル切込隊長 その1】
うぐっと唸る西谷に縁下はやっぱ強ぇなと木下は思った。ここでやはり思ってしまうのは俺の立場ってということであるがあまり考えると顔に出てそれこそ縁下あたりに心配されそうなのでやめる。
「漫画サークルの方も大変そうだったな。」
木下は代わりに別のことを呟いた。多くの女子が初対面では怖がる田中に臆した様子もなく暗いと言われた瞬間に飛んできた真島、漫画サークルの会長と他のメンバーの様子からして似たことを度々やらかしているに違いない。
「サークルの会長さんが真島はよく特攻するってよ。」
「真島だって。」
「縁下、知ってんのか。」
木下は気になってつい聞いてしまう。
「2-5の真島優子さんだな。」
「へぇ。」
「進学クラスの5組で漫画描いてる珍しい人ってんで一部では有名みたい。」
「でも何でお前知ってんだ。」
縁下はたまたまだよ、と笑った。
「廊下で原稿落として困ってたから拾うの手伝ったことがあってさ。」
「それで名前まで聞いたのか。」
「向こうが俺の名前知ってたのにびっくりしてさ、ついでに教えてもらった。」
「そりゃびっくりだわ。」
呟きながらも木下はそういえば、と思う。あの時真島は明らかに木下達3人を男子排球部の2年だと認識して少なくとも田中の名前は知っていた。一体どこで聞いたのだろう。
「でもまさかさ、」
縁下が苦笑して話を続けた。
「漫画サークルでポジションが田中と被ってるとは思わなかった。人って分からないもんだな。」
「そうだよな。本当サークルの人大変そう、大人しい人ばっかりな感じだったし。」
成田も頷くのを目の端に捉えながら木下はふと縁下に問うた。
「原稿拾ったっつーけど、絵うまかったか。」
縁下は即答してくれなかった。
「今度漫画サークル行って見せてもらえば。」
「お、おい、そこまでするほどじゃねーよ。」
「ふーん。でもさ」
「お、おう。」
「さりげに気になってるようにしか見えないよ、木下。」
勘弁してくれよな、と木下は部室の天井を仰いでため息をついた。