第3章 【慕う者】
そういう訳で来てみたら、意外にも入部希望者が4人いた。それぞれ自己紹介していてまぁ大方は無難な所で終わり、残りは1人だ。見た目はごく普通、他の奴よりとりわけ存在感が薄そうなそんな雰囲気、悪いけどこいつ大丈夫かなと俺は正直思った。
「××中出身、志野健吾です、ウィングスパイカーやってました。悩みは当人は普通なはずなのに喋るとちょいちょい笑われる事です、って横のお前ら早速笑うんじゃねえっ。」
いや笑ってしまったのは他の新入部員だけじゃない、2年も月島以外は速攻吹き出し、俺ら3年もついブフッとなってしまう。縁下なんかは向こうを向いて一生懸命堪えてる始末だ。でも仕方ねーよな、それこそ見た目普通なのにしれっとした顔でいきなり自己紹介があれじゃあ。
「くぉらお前っ、誰がおもしれーこと言えっつったっ、余計な事を言うんじゃねぇっ。」
クスクス笑いが止まらない俺らに呆れたコーチの烏養さんに怒鳴られ、その志野健吾って奴はすみません、と呟いた。その時俺は何か変な奴来たとしか思わなかった。
でもその変な奴は意外とやる奴だった。
「ヤバッ。」
それはすごく危ないところだった。日向の打ったボールが吹っ飛んじまった。日向は叫ぶけどいくら日向でもカバーが間に合わない、ボールの先にはマネージャーの谷地さん、俺らも間に合わなくて固まってしまったその時1人だけ誰かが動いた。次に聞こえたのはバシッというボールを受け止めた音と、着地したドッという音だ。
「ナイスキャッチっ。」
西谷が声を上げる。当の志野はあっぶねーと呟いて背筋を伸ばす。
「谷地先輩、大丈夫ですか。」
谷地さんはイヤイヤイヤイヤイヤっと慌てふためいていた。そりゃそうだよな。
「むしろ君が大丈夫でスカっ、えーと」
「志野っす。」
「志野君っ、大丈夫っ。」
「ご心配には及ばないっす。」
志野がしれっと谷地さんに言っているのが聞こえる。その志野はこっちの方を見て言った。
「お待たせしました、続けましょう。」
俺ら3年はついお互い顔を見合わせてしまった。向こうでは2年がわあわあ言ってて日向は谷地さんホントごめんっと叫び、影山がてめえ日向ボゲェッと進級してもイマイチ増えていない語彙で怒鳴っていた。