第1章 夏の思い出作り(赤)
「で、触るか?触んねやったらえぇぞ」
と、前を向いたまま
パーにした手を私へ
向けてくれてる。
そりゃあ触りたい。
触りたいけどさ…
「嫌、じゃないんですか…?」
「嫌ちゃうかったら聞かんやろ」
「……………………」
触りたいのは
やまやまなんやけど…
触ります、言うて触るのも
なんか恥ずかしくて躊躇してたら
待ち構えてくれてた手が
何も言わず引っ込められ。
素直に触りますって
言うべきやったかな?
と、後悔する。
「…………………」
会話が止まり
気不味い空気に
耐えられなくなって
車の窓から見える
海へ目を向けた。
その途端…
空調で冷たくなってた手が
急に温かい何かに包まれる。