第1章 夏の思い出作り(赤)
ゆっくりと向けられた顔。
距離があるから
どんな表情をしてるのか
はっきりとは見えへん。
胸はドキドキし始めて
その姿から自分の足元へ目線を落とす。
「…………!」
蝉の鳴き声と一緒に耳の中へ
私の名前を呼ぶ大きな声が届いた。
それでも顔は上げられなくて。
走って逃げれば良いのに
何故か足が動かない。
そして…ペタペタと音が近付き
借りたままのビーチサンダルのつま先と
色違いのビーチサンダルのつま先が向かい合う。
「…………良かった、居って」
安堵のため息交じりの声がしたのと
色違いのビーチサンダルの少し上に
まとめ髪が見えたのは同時で。
ブワッと一気に浮かび始める涙。
その滲み出した視界には私を見上げて微笑む姿が映し出されていた。