第1章 夏の思い出作り(赤)
微動だにしなかった背中が
ちょっとだけ反応した後
振り返った顔は驚いてて。
あのクシャッとなる笑顔を
見たかったけども…
振り向いてくれたし
目も合ったから
もうそれだけで十分。
「……、」
名前を呼びながら
近付いて来る。
その姿に微笑んで…
「大好きでした、」
震える声を我慢して
想いを過去にする。
止まらなくなった涙は
もう放ったらかし。
こんな時、泣かずに言えたら
後腐れなく終われたのに…
「……っ…」
良かった。
最後に名前呼んで貰えて。
揺れる大きな目に
映して貰えて。
「…さようなら」
ドアを開けて
振り返らずに
お店を飛び出た。