第1章 夏の思い出作り(赤)
「楽しくなかったのに、一緒に過ごしてくれてありがとうございました…」
向けられた背中のアロハシャツの柄が
薄っすらと滲んで見え始める。
出そうになる嗚咽を
何とか喉の奥に押し込めて。
溜まり始めた涙が零れないよう
唇を噛み締めて我慢。
楽しい思い出なんやから
笑って終わらせないと…
「無理に合わせてくれてた事に気付かなくてごめんなさい…でも、おかけで今まで過ごして来たどの夏よりもなんだかんだで今年の夏が1番楽しかったです」
「…………………」
泣いちゃダメ。
泣いちゃダメなのに…
我慢なんて出来る訳ない。
「………最後に1つ、だけ…訂正させ…て下さい」
涙交じりの情けない声で
今から気持ちを伝える…
「私が、好きになったのは…」
大倉さんじゃなくて。
「渋谷さん、です」