第7章 truth
山姥切は一人和泉守の方へ駆け寄っていく。傷を負っているにも関わらず、暴走気味に刀を振るっている和泉守を止めるためだ。散り散りに戦っている仲間達のことは気になるが、今は一番の負傷者を止めるのが先だろう。
「和泉守! これ以上勝手な真似をするな!!」
「あ? 山姥切か。俺を止めに来たのか!? 止めても無駄だぜっ、俺はあんたの指図を受けない!」
「指図するつもりはない。だからこれは俺のお願いだ」
「……あ?」
「頼む、その怪我で乱暴に刀を振るえば折れかねない。一度皆と合流しよう」
「……断る」
和泉守は目の前の敵を斬り倒すと、静かになった戦場で山姥切と向き合った。まだ敵は残っているかもしれないが、とりあえずはこの場には山姥切と和泉守のみとなった。
随分隊から離れてしまったらしく、気付けば辺りは木々に囲まれた森の中になっていた。
「俺は……いつの間に」
流石の和泉守も驚いた様子で、辺りを見回す。山姥切は緊張した面持ちで、一歩和泉守へと近付いた。
「どうしてこんなことをする。一対一の戦場じゃないんだぞ!」
「てめぇは騙されてるんだよ! あの審神者に」
「なに……?」
「俺達は道具だ、使われてこそ価値がある。それはいい、別に使われること自体に文句があるわけじゃない。だがな、安全な場所から俺達を傍観し主気取りなあの男のことが俺はどうも許せねぇんだよ」
「そこまで許せない理由が、あんたにはあるというのか」
「山姥切、てめぇはあの演練会のことを覚えているか?」
覚えているかと聞かれるまでもない。忘れるはずもない、あの演練こそ初めて刀剣同士で力をぶつけ合った戦いだったのだから。一種の力試しとはいえ、初参加だったのだから忘れようもない。あの苦い敗北の味も、一矢報いることは出来たかもしれないというちょっとした達成感も。
そして、三日月の攻撃から理仁は銃一つで山姥切を守ったことでさえも。山姥切自身、忘れるはずもない。