第1章 chess
「俺に触るな!!」
「……何がそんなに気に食わない? 言ってみろ」
「……っ、言ったところで意味なんてない! いいから、さっさと自分の家にでも帰れ!」
「生憎今日からここが俺の家なんでな。それを聞き入れることは出来ない。だいたい、話す前から人の感情を決めつけるのはどうかと思うが」
「言わなくてもわかる! あんたがどう思うかくらい!!」
「言わなくてもわかると言い切れるのは、親しい間柄あってのこと。お前と俺は、つい今出会ったばかりだ。お前に俺の感情を決めつける権利はない。自らの主張を通したいのであれば、俺が納得できる理由をきちんと説明してみせろ。それも出来ない奴に、指図される覚えはない」
「……っ」
「宝条様! 宝条様!!」
後ろから慌ててこんのすけが走って来た。「大変でございます!」と声を荒げながら。だから狐が普通に喋るな、とは思ったがそこは気にしていけないのだと必死に自分へと言い聞かせる理仁だった。
「宝条様、少々宜しいでしょうか? 山姥切様も、是非一緒に」
「断る!!」
山姥切は物凄い勢いで再び物置部屋に籠った。理仁が扉を開けようとすると、びくともしない。どうやら開けないように、扉の前に物を置いたのだろう。仕方ない、と溜息を吐いて理仁は一度こんのすけへと向き直った。
「大事な時になんだ」
「実は……その、大変申し上げにくいことが発覚しまして」
「またか」
こんのすけに連れられて、理仁は自室へとまず案内される。そこでようやく、こんのすけが本題に入るのだった。