第6章 pursuit
「何があったんだ。あんた、どうやって和泉守を怒らせたんだ」
「どうやっても何も、勝手に和泉守が怒り出しただけだ。理由はちゃんとはわからなかったがな」
「おい、明日からどうするつもりだ」
「どうする……とは? 俺は特別どうもしないし、和泉守にも変わらず接するつもりだが」
「和泉守があそこまで怒るなんてな。きっかけは、あるんじゃないのか?」
「それを話したところで、解決の糸口にはなりえない。明日も和泉守が同じ態度であれば、すこし考える。お前達はいつも通りでいてくれ」
「理仁っ」
山姥切は不安そうな顔で、きゅっと理仁の服の裾を掴む。
どうして話してくれないのか、話せないことなのか。見つめるその瞳を見た途端、そう訴えられている気がして理仁は無意識に視線を逸らした。山姥切はそれに気付いたようで、掴んでいた裾を離した。
「わかった……俺には言えないことなんだな。結局あんたは、一人で何でもしようとする。しかもそれは成功してしまうのだから、誰かを頼る必要なんてないんだよな」
「国広……」
「どうせ写しなんかに話すことなんて、何もないに決まっているよな」
「国広!」
山姥切は被っていた布で顔を隠すと、部屋を飛び出して行った。彼の悲しそうな背を見てしまって、理仁は伸ばしそうになった手を下ろしてぎゅっと拳を作った。
「退屈そう……か」
ただ部屋の中には静寂と、随分と短くなった蝋燭が今にも消えてしまいそうに揺れていた。
酷く重い朝が訪れた。いつもならそんなこともないはずなのに、どうしてか昨夜の出来事のせいで、誰もが何とも言葉にし難い表情を浮かべて広間に集まっていた。理仁は本日のスケジュールを纏めた紙を片手に、口を開いた。