第6章 pursuit
「次の合戦場は、函館か……」
心を教えることなど出来ない。それは、本人でしかどうすることも出来ないからだ。
◇◆◇
夜中。時刻は丑三つ時になろうとしていた頃、淡い蝋燭の灯りだけが部屋の中を満たしていた。政府から送られてきた先日の大演練会の通知書に再び目を通して、理仁は机に肘をついて溜息を吐いていた。
「おい主。起きてるか」
「……和泉守か? ああ、起きてるぞ」
「今ちょっといいか」
「……入れ」
すっと襖は開けられ、複雑な表情を浮かべた和泉守が立っていた。理仁が座るように促すと、渋々乱暴に腰を下ろした。こんな夜更けに、彼は何をしに来たのだろうか。それでも理仁は、ただ静かに和泉守の言葉を待った。
「次、函館だろ」
「ああ……」
「俺から頼みがある。あんたに頼みだなんて、俺としては物凄く嫌だし癪に障る。むかつくし、言いたくもない。でも国広のために、敢えて頼む」
「堀国に関わることか」
「明日の函館出陣、国広は外してくれねぇか」
「理由は?」
「……きっと、歳さんのことを思い出して歴史を変えられないかなんてほざくんじゃねぇかと思ってな」
和泉守は何処か悲しげに言葉を紡いで、少しだけ目を伏せた。
「思い入れのある場所なわけだな」
「まぁな。あんたにはわからねぇかもしれねぇが、俺達には基本それぞれ、前の主ってのがいる。前の主を想う気持ちと、今の主を想う気持ちは全然違う。国広はしっかりして見えて、あれでいて結構前のことを引きずってやがる。あいつに……あの時のことを思い出させたくない」
「和泉守は本当に彼のことを大切にしているんだな」
「うるせぇ、気持ち悪い事言うな」
一度大きく深呼吸をして、和泉守は軽く睨むような瞳で理仁を見た。長い黒髪がさらりと流れたかと思えば、和泉守は手を伸ばす。何をするつもりなのか、と考えている間に理仁は胸倉を掴まれてそのまま視界が動いて気付けば畳に押し倒されていた。