第1章 chess
ようやく上に辿り着けば、今度は大きな門が理仁を迎える。すると、門の前にひょこひょこと可愛らしい尻尾を揺らしながら狐が佇んでいた。理仁の姿を見つけると「あっ」と声を発して、トテトテ歩いて来る。
この狐、喋れるのか。と思いながら理仁は今まで見たことのない狐を、まじまじと観察した。
「お待ちしておりました、宝条様。わたくしめは、この本丸の案内役のこんのすけと申します。これから審神者として、本丸に身を置く宝条様のお手伝いが出来ればと思っております。何卒、宜しくお願い致します」
「ああ、宜しく頼む。ところで、俺が選んだ初期刀も既に本丸入りしていると聞いているが、どこにいる?」
「山姥切様のことですか? ええ、まぁいらっしゃいますが。共に宝条様をお出迎えしようと、何度も申したのですが……なんと申しますか。嫌だと、駄々をこねておりまして」
「理由はなんだ?」
「……大変申し上げにくいのですが、ただの人の子が審神者など笑わせるなと……」
「彼は今どこに?」
「この本丸の、物置部屋に」
何故物置部屋に? 疑問には思ったが、一旦それは後だ。理仁はこんのすけを通り過ぎて、本丸へと足を踏み入れた。
「え、宝条様? 宝条様! お待ち下され!! このこんのすけも、お供に!」
「お前は大人しく待てだ。いいな?」
「わ……わたくしめは犬ではございませぬっ!!」
こんのすけの言葉を無視して、理仁はずんずんと奥へ足を進める。来たばかりの彼が、物置部屋の場所を知るはずもないのだが、迷いなく理仁の足はとある本丸の隅にある部屋の前で止まった。軽くノックをして、声をかけてみる。