第5章 promise
「ええ、構いませんよ。俺がいなくなって困るのは、あちら側みたいなんで」
「佐伯さんも用心して下さいよ。俺は知り合いであっても、姉さんのように理由もなく消されるような真似は見逃せない」
「消される、なんて口にしないことです。貴方もまだ命は惜しいでしょう?」
「……大人ぶらないで下さい。俺はもう、子供ではない」
「そういう人ほど、子供なんですよ。でも貴方には純粋に期待していますよ」
明らかに子供扱いするように、佐伯は理仁の頭を撫でた。理仁は嫌がるよりも寧ろ呆れた様子で、大きく溜息を吐くだけだった。
「宝条さん。俺も田頭さんも少なくとも、貴方の味方のつもりです。あまり一人で抱え込まないで下さいね。ああそれと……」
「まだ他に何かあるんですか?」
「山姥切さんのこと、ありがとうございます」
「はい……?」
「彼はきっと、あのまま貴方が政府に突き返していたら刀解されていたか、もっと酷い本丸に連れていかれる予定でしたから。彼を選んでくれて、ありがとうございます」
「俺にとって……国広は、大切な仲間ですから」
「国広、ですか。ふふっ、随分情が移っているようで安心しました」
「変なこと言わないで下さい。さよなら」
理仁は軽く佐伯に会釈すると、その足で手入れ部屋へと向かった。未だそこから動かない岩融は、一言だけ佐伯に問うた。
「俺が勝手な行動をして、怒ってるか? 佐伯よ」
「いいえ、怒ってませんよ。元より貴方は自由な刀剣、好きになさい。所詮俺は、審神者にはならないんですから」
「……ではまた」
岩融は理仁を追いかけるように、小走りで去っていく。二人の背中を見つめながら、佐伯は満足そうな笑みを浮かべて演練中の会場へと戻っていく。