第5章 promise
「岩融はそこで何をしている?」
「久しぶりな人物を見かけてな、思わず声をかけてしまっただけだ。特に何もしていない」
「本当ですよ。しかし……宝条さんが岩融を懐柔していたことには驚きました」
「懐柔なんてしていません。勝手に懐かれているだけです」
「ふふ、それだけで十分ですよ。岩融はとても役に立つと思いますよ、貴方の野望を叶えるかは別として」
「気付いて、いるんですね」
理仁は心なしか目を細めた。
「はい、気付いてますよ。と言っても、俺と田頭さんくらいでしょうけど。貴方がどうして素直に審神者になったのか、俺達だけはわかっているつもりです。お姉さんの死の原因を、探しているのでしょう? わざわざ審神者になることで、政府上層部を探ろうとしている。そのために貴方は、審神者の中でも特に優遇される立ち位置、上位五位を目指している」
「そこまでわかっているのなら、どうして俺みたいな奴を野放しにしているんです? もしかすると、貴方達にとって脅威になりかねない」
「さあ、俺にはわかりませんよ。だって貴方のしていることを、否定する気持ちにはなれません。ただ一人無二の家族、それを理由もはっきりとわからないまま失えば真相を知りたくなるのは自然なことでしょう」
佐伯は大き目の茶封筒を一通、理仁へと差し出した。それが何なのか、だいたいの予想はついていたが一応確認のために理仁は尋ねた。
「これは?」
「俺の知る限りの、お姉さんの当時の戦績と報告書の一部。現状報告の纏めです。生憎俺のような役人は、政府側からも毛嫌いされているのでこれくらいしか情報を持ち合わせていません」
「これを俺に渡していいんですか? 怒られるのは、佐伯さんですよ」
そう言いながらも、理仁は躊躇うことなく茶封筒を受け取った。