第5章 promise
「俺達の練度を相手に、見事な戦略であった。この俺を中傷まで追い込んだ部隊は、そなた達が初めてだ。いやしかし、まさか俺一人を狙い撃ちしてくるとは思わなかったぞ」
「意外だったか?」
「そうだな……こんな高揚感は初めてだ。初めて"殺される"と覚悟したくらいだぞ」
三日月は心底嬉しそうに、少しだけ狂気じみた瞳を見せくくっと笑った。相当先程の戦闘が楽しかったらしい。三日月が会場の方へと視線を向ければ、その三日月の瞳が自らの主を映し出す。三日月の瞳に映る男の顔は、真っ青になったり真っ赤になったりと忙しい。
「理仁殿、そなたの作戦通りのようだぞ」
「というと?」
「我が主が今にもゆでガエルになりそうな顔で、こっちを睨み付けておる。大方、この勝敗に満足していないのだろう。ふふ、それに引き換え他の観覧者達はえらくそなたへと面白い視線を送っている」
「ゆでガエル……」
「ふふ、俺の主はとても醜い。下衆の極みだ」
自らの主であるにも関わらず、相当酷い言い方だ。その言葉から読み取るに、やはり三日月宗近は自らの主を嫌っている様子だ。理仁は少しだけ苦笑いを浮かべて、会場の方へと視線を向けた。確かに彼の言う通り、演練を観覧していた審神者達がざわつきながら「なんだあの審神者は」と口々に感心したり軽蔑したりと様々だ。
理仁は居心地悪そうに視線を外すと、三日月へと手を差し出した。
「……? 何の真似だ」
「握手だ。良い戦いだった、練度が低いあいつらにとっていい経験にはなったはずだ。次に会う時は、叩きのめす」
「はっはっはっ! よきかな、よきかな。若いとはいいことだ、俺もそなた達を見習い一層稽古に励むとしよう」
三日月は理仁の手をぎゅっと握ると、握手を交わす。手が離れたと同時に、三日月は部隊を引きつれ手入れ部屋へと向かう。理仁は今日の仕事は終わりだな、と言いたげにようやく場から離れた。
山姥切達の元へ向かおうとした時、血相掻いて彰人が駆け寄って来た。