第4章 stormy
「野蛮な奴らじゃ! わしのことも知らんのか? これだから新人は……」
「悪いな。何も知らなくて、だからこそ情報交換もかねてこの場に参上したというわけだ」
「ふん。お前達のような使い捨ての新人が、偉そうに。わしの刀剣はな、凄いのだぞ! なんとあの天下五剣、三日月宗近がおる! ほれ三日月、この不躾な奴らに挨拶をしてやれ」
「あいわかった」
男の後ろから驚くほど美しい刀剣、三日月宗近が姿を現した。伏せられていた目が、ゆっくりと上がり理仁を射抜いた。理仁の目に映ったのは、三日月の中にある月の打ち除け。それは見入ってしまうほどに綺麗で、一瞬言葉を失った。
「三日月宗近、打ち除けが多い故三日月と呼ばれる。次に会う機会があるかは知らぬが、宜しく頼むぞ。理仁殿」
「どうして俺の名を?」
「そこの元気な少年が、そなたの名を大声で叫んでおったからな。ははっ、そりゃ覚えもする」
笑う姿でさえ、優雅でずっと見ていたくなる。目の前の男は、嬉しそうに三日月の頭を撫でているが当の三日月本人はあまり嬉しそうではない。寧ろ、理仁の目には嫌がっているように映った。
「俺は宝条理仁、演練の場合は容赦しない。宜しく頼む」
「わしと、演練? あははっ! 面白いことを!! わしが誰か、教えてやろう」
男は懐から、戦績と思われる紙を広げて理仁に見せつけた。
「わしはこれでも審神者レベルは五十以上、新人は知らんかもしれんが審神者会では毎回演練の成績もよく審神者の中でも、上位十位以内に入るほど。お前らみたいな奴らが、相手出来るほどではないわ! あっはっはっ!!」
こそこそと、周りの声が聞こえてくる。
――あの新人災難だな、あの男に捕まえるとは。
――奴も飽きない。新人いびりか。
――新人の練度、低そうだからな……逃げた方が賢明だろうに。
好き勝手に囁かれているが、理仁に元々"引く"という考えは持っていなかった。