第1章 chess
「やっぱ俺、理仁と一緒にどこまでも行きたいんだ。それがどんなに馬鹿なことでも構わねぇ! 俺達、親友だろ」
そう言って彰人は勢いよく理仁の肩を叩いた。もしもこれが、二人きりでなかったらその音で周りが咳払いをしてきたかもしれない。それくらい、思い切り叩かれた。理仁は何とも言えない表情を浮かべながら、叩かれた肩をさりげなく摩っていた。
「そういえば、初期刀何選んだ? 打刀九本から好きに選んでいいって言ってたよな。で、俺はへし切長谷部を選んだんだけどよ。なんでそいつを選んだか聞きたいだろ!?」
「そうだな、聞きたいな」
理仁の視線はもう既にノートへと戻っていた。
「あの織田信長が使用していた刀だぜ!? 絶対かっこいいに決まってる!」
「お前のそういう単純なところ、俺は嫌いじゃないよ」
「ありがとよ! で、理仁は?」
「俺か? 俺は山姥切国広」
「なんだそれ?」
「霊剣山姥切の写しとして打たれた刀」
「それって、レプリカってことか? なんだ、理仁だったら宗三とか歌仙なんかが似合いそうだったんだけどな」
「写しと侮ることなかれ。国広の第一の傑作として名高い一振りだ。馬鹿には出来ん」
「なんでその山姥切にしたんだ? 他にも色々あるのにさ」
一瞬、理仁の瞳が曇ったように思えた。けれどそれを知っているのは、当の本人だけでなんとかいつも通りを保ちながら、何事もないような素振りで答えてしまう。