第1章 chess
「お前……どういうつもりだ? その紙、新しい名前の発注完了書じゃないか。しかもなんだその名前。黒蜜彰人って」
「俺の新しい名前。審神者ってさ、付喪神に真名を知られちゃいけねぇんだろ? 手続きめんどくせぇよな」
「で、なんでお前が審神者に?」
「まずは俺の質問に理仁が答えやがれっての!」
理仁は呆れたようにまた大きな溜息を吐いて、ようやくペンを置いた。
「ああそうだよ、俺は審神者になる。大学も結構楽しいけど、この先俺がやりたいことはないし……かといって無難に就職するのも味気ないだろう」
「辞めるとしたら、いつだよ」
「明日じゃないか? 俺は質問に答えたんだ。次のお前の番だ」
「俺か? なんで俺が審神者になろうと思ったかって? そりゃもう、決まってんじゃん! 理仁がいるからだろ」
彰人は嬉しそうに笑いかけた。
「俺達さ、高校からの付き合いじゃん? 俺って短気だし柄悪いし周りから何かと嫌われてる中さ、お前だけが俺と仲良くしてくれた。お前のお陰で学校は楽しいし、お前と何かするのも楽しい。つまり、お前に着いて行けば俺はずっと楽しいってことだ!!」
「単純馬鹿だな。お前、将来保育士になりたいって言ってなかったか? その顔で」
「顔は関係ねぇよ! 確かに、俺は保育士になるのが夢だ」
「じゃあ……」
「でもさ」
理仁の言葉を上から掻き消すように、彰人が言葉を重ねる。理仁が見た彰人の目は、迷いなんて一切なくて……止めても無駄なんだろうなと瞬時に理解した。