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刀剣乱舞 盤上のクロッカス

第4章 stormy



「……悪い、嫌なことを思い出せたようだ」

「お前は何も悪くないさ。所詮、思い出に変わっていつかは忘れていく。綺麗な思い出に縋ったところで、それは滑稽なだけだ」

「そんなことはない!」


 山姥切は理仁の手を掴むと、ぎゅっとその手を包み込んだ。驚いた理仁は、彼の方へと視線を向けた。


「山姥切……?」

「綺麗な思い出になるだけでも、悪いことじゃないと……俺は思う。あんたの気持ちを理解することは出来ないし、どうにもしてやれないが……少なくとも俺は素直に綺麗な思い出になっていくと思えているあんたが羨ましい」

「どうして?」

「俺の中に留まり続けている記憶の全ては、そんな綺麗なものじゃないからだ」


 所々、声の端に棘が含まれ始める。


「あんたと出会う前……俺は、鬼を見た」

「鬼?」

「あの男は……俺がずっと昔に見た、鬼と同じ顔をしていた。欲に塗れ、己のためだけに俺達を道具として扱う。酷使され、もう駄目だ無理だと泣き叫んでもあの男は……やめなかった」


 山姥切の口から語られる、前任者との過去。ある程度は覚悟していたものの、彼の口から聞くとこれほどまでに重く感じるとは思いもしなかった。理仁は力なく、空いた手で彼の手の上に重ねた。


「最後にあいつは、俺に言った。"オレが完全な鬼になったら、お前が斬ってくれるんだろう?"と……。ああ、そうだ。そうだよ……俺は、俺は一度ならず二度までも。この手で鬼を……斬り捨てたんだ」


 鬼。つまりはその前任者は闇落ちにでも遭ったのかもしれない。人の欲は計り知れない、簡単に滅亡していけるし逆に救済にも変わっていく。その全て、使うものの心次第。審神者という特異職、もしかすると精神と霊力とのバランスを崩してしまったのかもしれない。

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