第4章 stormy
「姉さん、俺は審神者になったよ。貴方が願った……審神者になった」
写真の中には、まだ幼さを残した理仁と黒髪の美しい女性が一緒に映っていた。二人共笑顔で、幸せそうなのが写真からでもわかるほどだ。
「姉さん。どうして……どうして貴方は、いなくなってしまったんだ」
すると、ことりと床が軋む音に理仁は顔を上げた。襖の隙間から、布がひらりと見えて相手が誰なのかすぐに気付いてしまった。
「山姥切か、どうした? 眠れないのか」
「……少し、いいか?」
理仁は襖を開けてやると、おずおずとした様子で山姥切は部屋の中へと足を踏み入れた。淡い蝋燭が、ゆらりと揺れた。
「……それは?」
「ん?」
山姥切は腰を下ろすと、理仁が手にしていたものを指差した。きっと彼らの時代に、写真なんてものはなかったのだろう。だからこそ、見慣れないものが珍しくて仕方ないのかもしれない。
「これは写真だ」
「しゃ……しん?」
「絵のようなものだ。と言っても、絵とは違ってその人物と風景をそのまま映し出す。まぁ、詳しく説明するより見た方が早いな」
理仁は写真を山姥切へと差し出した。素直に受け取ると、まじまじと写真を食い入るように見ている。よっぽど珍しいらしい。一瞬、理仁は笑いそうになるのを堪えた。
「この中に映ってるのは、誰だ」
「俺と姉さんだ」
「姉……? あんたに、姉がいるのか」
「ああそうだよ。と言っても、今はもういないが」
「それはどういう……」
「俺が審神者になる前に、死んだ」
あの日、教会で花を捧げた時のことを理仁は思い出していた。綺麗に眠る彼女が、もう二度と目を醒まさないだなんて誰が信じられるだろうか。神様なんていない。そう、思うほかなかった。