第3章 visitor
「お前なんて嫌いだ!!」
今度こそ、山姥切は勢いよく部屋を飛び出した。一人取り残された理仁は、未だ寝転がったまま呆然と天井を見つめる。怒涛のように訪れた審神者としての日常。
「慣れないかもしれない、と思っていたんだがな……」
理仁自身、気付かない内にこの日常に慣れ始めているのかもしれない。わからないことは勿論多いし、急激に増えた刀剣達を纏められるのかもよくわからない。とはいえ、大きな不安は特別なかった。
「彰人の奴、どうしてるかな」
都会とは違う、穏やかな時間の流れに何もかもを忘れてしまいそうになる。けれどふと浮かんで来る、彼の中にある絶対的な信念。想い。思い出す度に、理仁の瞳はどこか遠くを見つめる。
「審神者か。どこまでやれるかじゃない、どこまでも……行くんだ。全てを知るために」
廊下の方で、戸に凭れ掛かり彼の独り言を聞いている者がいるとも知らずに。その者は、ゆっくりと場を離れ廊下を歩いた。面白くない、という顔をしながら縁側に辿り着くと、そこへ座っていた堀川が声をかけた。
「兼さん、主さんと山姥切さんはどうだった?」
「ふん……知らねぇ」
「ええ! 様子を見に行ったんじゃないの?」
「そうだけどよ……なんつーか、あんな餓鬼に審神者なんて勤まるのかね」
「そういう言い方、よくないよ。僕はとても落ち着いていて、いい人だと思ったけどね」
「いい人じゃ、戦場で生き残れねぇだろ」
はっと和泉守は鼻で笑った。
――突如、門を突き破るような壮絶な音が本丸中に響き渡った。
「何事だ!?」
和泉守が玄関へ向かうと、理仁と出くわす。和泉守は、さっきの理仁の独り言でも思い出したのか、しかめっ面をして理仁を無視するように先に外に出た。
「おい、和泉守」
理仁も後を追う。走り出したのは和泉守の方が早かったが、理仁は平然とした顔で和泉守の速度に合わせるように走る。横に並ぶ理仁に、和泉守は少しだけ感心した様子だった。