第3章 visitor
「やはりここか」
「……いきなり、開けるな」
拗ねた様子で、相変わらず隅に蹲っていた。仕方なく理仁は彼に近寄ると、そっと手を差し伸べた。あの時のように。
「お前がなんと言おうと、お前が部隊長だ。それだけ俺に信用されていると思ってほしいところだがな」
「ふんっ、どうだか……」
「俺は今日出会ったばかりの奴等より、お前がいいよ」
そう微笑んで告げれば、山姥切が勢いよく顔を上げた。彼の顔は林檎のように赤くなり、ぺしっと理仁の手を叩いた。
「そんなこと……ッ、いきなり言うな! ば……馬鹿っ」
そうして被っていた布を、更に深くまで被り直す。可愛い。本当に、可愛い。
「お前、可愛いな」
無意識に理仁の口から、言葉は飛び出していた。それに後から気付いた理仁が「あっ」と言ったのと同時に、山姥切はまた赤い顔を向けて理仁を押しのけて部屋から飛び出そうとする。
「こら、待て」
理仁は思わず彼の腕を掴み、引き留めようとすると思いの他力が入ってしまったらしい。山姥切は声にならない声を上げて、そのまま理仁に倒れ込む形で二人して大きな音を立てて床に倒れた。
「いてて……悪い、山姥切」
「……っ、あんたは! 馬鹿力なのか!?」
山姥切は、そこではっとする。
理仁は強く背中を打った衝撃で、痛みで顔を歪ませながら前を向いた。すると……――目の前に綺麗に整った山姥切の顔があった。どうやら、山姥切が理仁を押し倒すような形で倒れ込んでしまったらしい。
呑気に理仁は「綺麗な顔だな」と見つめていると、山姥切は今日一番の赤い顔を見せた。