第2章 conspiracy
「……っ!?」
「……」
しかし理仁からの反応はそれ以上なかった。無意識なのか、それとも彼の中にある防衛本能の一種なのか。すぐに手は離されたものの、意識がないわりには強い力で掴まれたため、山姥切は驚愕で心拍数が上がるのを感じていた。
「お、起きたのか……?」
返事はない。やはり寝ているらしい、これでも。
瞬きを繰り返しながら、山姥切は理仁を凝視していた。ようやく落ち着いたところで、適度な距離を取ってまじまじと理仁を見つめる。男にしては長い睫毛に、きめ細かい白い肌。柔らかそうな綺麗な髪。
「本当に男か、あんたは」
思わずふっと笑った。そんな自分を知って、初めて顔を合わせた時に感じていた嫌悪感が少しだけ薄れていることに山姥切は気付いていた。無防備な寝顔を見たせいなのか、それともやはり先程の理仁の言葉が胸の奥で引っかかっているからなのか。
「写しにしては、綺麗だな」
口にした途端、すぐに嫌なそうな表情を浮かべた。
「あんたと俺は、違う。俺は……汚い」
静かに彼は押入れを開けると、中から掛布団を取り出しそっと理仁にかけてやる。再び距離を保ったまま今度は腰を下ろすと膝を抱えて、理仁を観察し続けた。
「俺が、あの人を殺したんだ」
彼の声は部屋の中に溶けて、跡形もなく消え去る。理仁の寝息を聞きながら、山姥切は本能のまま目を閉じた。
いつからだろう。明日に期待を抱かなくなったのは、いつからだろう。何度明日を迎えても、もう何もかも失われた後なのだと知ったのは。いつからだろう……。
ひとりに慣れてしまったのは。
◇◆◇
ゆっくりを意識が浮上するのを感じて、理仁はあんなに重たかった瞼を開けた。今は逆に酷く軽く感じて、容易く目覚めることが出来た。無意識に蓄積された疲労は、いとも簡単に理人を夢の中へと誘ったのだった。何か心地よい夢を見ていた気がしたが、もう思い出せなかった。
ふと、自分の身体に布団がかけられていることに気付き、理仁は首を傾げた。