第12章 crocus
山姥切の前に出て演練で三日月から守ってみせたり、和泉守のためにと自ら戦場へ飛び込んでみたり。思い返せば、沢山のものが溢れ返って理仁の心を満たしていく。それはやがて芽を出し、花が咲いて理仁の心を優しく包み始める。
嘘偽りない気持ちが根を張った頃、理仁の心を解きほぐしたのはやはり山姥切の存在なのだろう。
言葉にならない気持ちごと、理仁はただ彼を抱き締めた。
「俺の山姥切国広は、この世で一番の刀だ」
「……ッ、馬鹿だろう……っあんたは! そんな……そんな嬉しいこと……俺に、言うなよ……ッ」
山姥切は抱き締められた分を返すかのように、自らもきつく抱き締めた。どれだけの言葉を例え重ねたところで、この二人には足りないくらいなのかもしれない。
言葉はとても便利だ。だからこそ、足りなくなっていく。
暫くそうしていた二人だが、互いに徐々に腕の力を緩め手を離した。互いに隙間が生まれたことで、同時にしっかりと顔を見つめ合うことが出来た。理仁は目尻に涙を滲ませている山姥切の目元に指を添え、そっと滴を拭った。酷く穏やかに微笑みながら。
「国広、これからも俺と一緒に戦ってくれるか?」
「……ふっ、あんたが俺を望んでくれるのなら」
「……よしっ! 早く本丸内に戻ろう。他の奴らをいつまでも待たせていると、後で何を言われるかわからないからな」
「よくわかってるじゃないか。まぁ、いいさ……あんたが居てくれるなら俺は。俺達は……もっともっと、強くなれると思うから」
「……行こう」
手を繋ぐ。たったそれだけなのに、何故か心は軽く感じられて幸せな気分になった。過ぎ去った過去はどうしたって取り戻せないし、犯した罪は二度と消えないだろう。