第12章 crocus
「いえ、いいんです。俺は彼らと……最初から、やり直していくつもりですから」
「最初から、ですか」
「はい。俺は今までずっと、姉の真実を知るためだけに審神者をしてきました。そこに彼らへの敬意もなければ、信じる心も存在しませんでした。でも……俺の大切な相棒が、教えてくれたんです。信じること、頼ることの……本当の意味を」
「そうですか……。宝条理仁さん、貴方はきっと素晴らしい審神者になることでしょう。俺は心から貴方の力強い魂に、敬意を表します。本当に、お疲れ様でした。そして……これからも、宜しくお願いします」
「勿論ですよ。俺、結構貴方のこと嫌いじゃないですから。田頭さんの次に、ですけど」
「ふふ、田頭さんには伝えないでおきますね。それでは……」
佐伯は深く理仁へと頭を下げ、現場へと戻っていく。その後ろ姿を見つめながら、理仁は仲間達の方へと歩き出した。
「……理仁」
「国広、それに皆。まぁ……なんだ、助けに来てくれてありがとう。本当に、ありがとう。これからも……俺と一緒に来てくれないか?」
そう言って理仁はふわりと微笑んだ。誰もが理仁の表情につられて笑みを浮かべ、躊躇いことなく頷いた。山姥切もまた、例外なく。
「俺はあんたの初期刀だからな、最期までとことん……付き合ってやるよ」
「ああ、宜しく頼むよ。国広」
理仁と山姥切は、互いに視線を合わせ笑い合う。全てが終わったのだと、ここで初めて理仁は感じ取るのだった。身体はまだ痛む、理仁もまた後に病院に搬送されることになっている。山姥切の神気を受けたとはいえ、それもごく僅か。
仲間達に一言告げ、政府の役員に案内され理仁は一度現代に戻り、安静にすると共にきちんとした治療を受ける。しかし、怪我は周囲を驚愕させるほど傷痕がほぼ見当たらす治療と呼ぶほどのことは成されなかった。
ただ、大量の血を失っていたため長く輸血を受けることにはなった。しかしそれ以外にやることもなく、理仁は退屈な病院生活を数日送った。