第12章 crocus
光を浴びた先には、見慣れた仲間達が待ってくれていた。理仁達の姿を見るやすぐに駆け寄って、強く強く抱き締める。与えられた体温を噛みしめながら、理仁は一人思うのだった。
失ったものは元には戻らない。けれど、今目の前にある大切なものだけは……けして失わないようにと。
この手を、けして離さない。
控えていた佐伯と田頭によって、上層部に居座っていた人間達は次々に拘束され現代にて処罰が降されることになった。そのことを理仁は、田頭から聞きながら何処か上の空だった。佐伯は他の審神者達を収集し、建物に残る敵を全て殲滅するのに力を注いでいた。
その時に、演練で出会った赤が印象的な審神者の姿を見つけたが、互いに言葉を交わすことも目を合わすこともなかった。
研究施設も、全て刀剣達の協力もあって綺麗に破壊され消滅した。後で理仁は佐伯にこの事件のことを、外部に漏らさない約束を交わす。元々理仁に、この事を誰かに話すつもりなどなかった。そんな興味さえなかった。
目まぐるしく人々は入れ替わりやってきて、事態は一気に収束に向かった。
ふと、佐伯が理仁へと近付いてきた。
「色々とご協力感謝します、宝条さん」
「いえ……こちらこそ、お陰で皆無事に外に出てくることが出来ました。ありがとうございます」
「いえいえ、心配ご無用ですよ。それにまだ……これはほんの序章に過ぎませんから」
「……? 何か言いましたか? 佐伯さん」
「いえ! 何でもありませんよ。ところで、宝条さんはこれからどうしますか? 貴方が望めば、審神者をやめることも出来ますよ」
「審神者を……やめる、ですか」
理仁は一度、仲間達の方へと顔を向けた。理仁を見つめる彼らの瞳には、迷いもなければ不安も恐れもない。これは、確かな"信頼"と呼ぶに相応しい。理仁は満足そうに彼らの顔をそれぞれ確認すると、再び佐伯へと向き直った。