第12章 crocus
「お前達……っ」
「太刀が一振り、和泉守兼定」
「脇差が一振り、堀川国広」
「主の危機ときたら、助けに行かないわけにもいかねぇだろっ!」
「主さん、大丈夫ですか!?」
「和泉守に堀国……お前達、どうしてここに?」
姿を見せた二つの影の正体は、和泉守と堀川だった。二人は心底驚いて硬直している理仁を見つめながら、ふっと微笑むのだった。
「話すと長くなるから、そこは割愛だ。建物の外で、他の刀剣達が本丸への帰り道を開いて待機してる。急ぐぞ!!」
「主さん、僕が肩を貸します。急ぎましょう。そこのお二人も早く!!」
思わぬ援軍にその場にいた三人は少なからず、安堵の笑みを浮かべた。和泉守と堀川の力を借りて、全員一気に階段を駆け上がり始める。その途中、階段の上からも敵が何人も道を阻みに来る。だが、理仁の的確な指示の元では無力と化していく。
今まで積み重ねて来た演練での経験、本丸での修行の日々がここで実を結ぶ。それぞれが少しの余裕を残し、地下を抜け出した。
暗い暗い闇の底、地獄から這い出た理仁達は――光を浴びる。
時は戻せない。何度も何度も繰り返した悪夢は、やがて心を蝕み枯れない涙を流すのだろう。彼らが歩んだ日々が、土となり芽を出しいつか花を咲かせた時――何を思うのだろうか?
一日は瞬きをしている内に過ぎていく。数えきれない傷を抱えて、数えきれない幸福を知って。抱き締められないほどの大切なものに囲まれながら。愛した人、愛された人。等しく罰を受け罪を抱えては、その手を取り合う。
覚めない悪夢などない。止まない雨などない。それぞれが残した人生の傷痕を、彼らはそれでも愛して生きていく。
――たった一つ。大切な君のためにと。