第12章 crocus
「早くここを脱出した方が良さそうだ。とにかく二人共、俺と一緒に上に行こう。長居してはいけない」
山姥切と一期はそれに頷くと、まだふらつく理仁の身体を支えながら気味の悪い白い部屋を出た。
――しかし、その先はもっと酷い有様になっていることなど知る由もなかった。
むせ返るような血だまりに、鉄の臭い。大量のカプセルは無残にも破壊され、生きているのか死んでいるのかわからない人間の身体が、道を埋め尽くすほどに転がっていて。
「なっ……なんだ、これは」
思わず理仁は顔をしかめ、声を上ずらせる。今まで見たことのないような光景を前に、平然としていられる人間はまずいないだろう。それでも……この先に行かなくては、この場を早く立ち去らなくては。その思いだけ抱いて、三人は辛うじて歩き始める。
エレベーターの前まで辿り着くが、残念ながらボタンが反応しない。
「……階段で行くしかなさそうだな」
理仁がそう呟いた時、山姥切と一期は一斉に抜刀し理仁を守るように背に隠す。
「どうした、二人共」
「……敵の気配がする。それも、一つや二つじゃない」
「うむ、これはまずい状況かもしれませんね」
そんな馬鹿な、どうして政府でそんな気配を察知する?
理仁も目を凝らし、前方を確認する。徐々に霧がかかっていたのが晴れていくように、人影を捉える。輪郭を得て、姿を見せたものに理仁達は更に驚愕することとなる。
前方に見えるのは、大量の歴史修正者達の姿だった。見たことある姿の他に、今まで見たことのないようなものまで。中には人間の姿をしているようにも思えた。あまりに異端な光景に、三人は互いに視線を送り合う。――理仁は懐から銃を出す。