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刀剣乱舞 盤上のクロッカス

第12章 crocus



 視界がゆっくりとクリアになる感覚を覚え、理仁は瞼を開ける。一番に目に飛び込んできた世界は、涙を瞳いっぱいに溜めて空色の瞳が揺れている光景だった。不思議と傷の痛みは訪れなかった。そっと手を伸ばして、理仁は目の前で泣き腫らしている彼の涙を拭う。


「どうした……国広。悲しいことでも、あったのか……?」


 はっきりと理仁が声を発する。静寂な部屋の中だ、届かないはずがない。山姥切は理仁の手のぬくもりをしっかり受け止めると、溢れ出す涙を止める術も忘れてきつく理仁を抱き締めた。

 胸に耳をあてれば感じる、確かに感じ取れる。生きている証、心臓の鼓動。


「……理仁ッ! 良かった……っ、本当に……良かった!!」

「国広……」


 痛いくらいに抱き締められ、それでも理仁は力なく笑って抱き締め返した。求めた手がそこにあった。ようやく辿り着いた。互いに血で汚れ、無事だと言い切れるわけではなかったが。理仁は山姥切を抱き締め返しながら、そこから見える景色を確認する。

 部屋の隅に首のない死体。首はなくとも、誰なのかは何となく理解出来た。


「国広、お前はどうして……ここに」

「佐伯とかいう奴の手を借りて、あんたを追いかけて来た。あんたは本当に……っ、俺のいないところで! 勝手にくたばるような真似は許さない!!」

「……ああ、その……」

「俺が、俺がどれだけ心配したか……ッ」


 まるで子供のように泣きじゃくり始める山姥切を、ただ理仁は言葉少なに頭を撫で宥めた。彼の手を借り、身体を起こせばあんなに酷かった傷痕がまったく見当たらないことに首を傾げる。理仁は受けたはずの傷痕を探すように、自らの手で撫でた。
 僅かな傷痕を確認できたものの、血は止まりまるでかすり傷のようになっていた。

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