第11章 memory
「……動いて、る」
心臓は僅かではあるが、小さく鼓動を刻み理仁は生きていることを証明していた。まだ間に合う。そんな感情が浮上すると同時に、山姥切は布を脱ぎ捨て両手で理仁の頬を包み込む。痛々しそうな傷が視界に入り、その度に胸が苦しくなるのを感じた。
肩口の傷。自らが彼に犯した罪だと知ると、いたたまれない気持ちになった。後悔はいつだって後からやってくる。
「俺達は……付喪神だ、神様みたいな力なんてない。それでも、それでもだ……」
こつん、と山姥切は理仁の額と額をくっつける。至近距離で冷たい理仁に触れて。
「俺の神気をやる。だから、生きて……言わせてほしい言葉があるんだ。理仁」
山姥切は、理仁へと口付けた。
触れた箇所から、冷気のようなものが漏れ出して理仁の体内へと落ちていく。冷たい熱とは違い、一気に火傷でもしてしまいそうな熱が急速に彼の身体を満たし始めた。彼が目を開くまで、山姥切はその唇を離さなかった。
――生きてほしい。ただそう願った。願いは神気へと変わり、理仁の器に収まる。神気を与えるということ、けして山姥切は知らないわけではなかった。それでも願ってしまった、求めてしまった。
山姥切が唇を離すと、僅かに理仁の唇が動いた気がした。
「……くに、ひろ?」
鼓動は、大きく刻まれた。