第11章 memory
「どういう……ことだ」
「話しとうない。いつか、何処かで語れる日が来るだろう」
三日月は山姥切に近付くと、彼の視線を無視するかのように女を優しく抱き上げた。そうして、愛おしそうに女の頬を撫でまるで独り言のように呟き始める。
「迎えに来るのが遅くなった、すまない。一部記憶を隠蔽されていてな……思い出すのに、こんなにも時間をかけてしまった。許してくれ。一人で寂しかったろう? 闇落ちした魂は、永遠に安らぎを得ることなく彷徨い続ける。だが安心しろ、同じ場所に堕ちてはやれないが……この三日月宗近の手で、お前の魂を……この世から消し去ろう」
そのまま女を抱いたまま、三日月は入口へと向かい歩き始める。それにはっと我に返った山姥切は、三日月の道を阻むように目の前に滑り込んで立ちはだかる。途端、三日月の目は細められる。
「何処にいくつもりだ!?」
「俺は彼女を連れて消える。それにより、政府の人間が計画していた歴史修正者を人工で生み出す計画は破綻する」
「……歴史修正者を、生み出す?」
「それより、そなたの方こそどうするつもりだ?」
「……俺、は……」
山姥切の視線は宙を彷徨う。迷い、戸惑いが見える瞳だ。三日月は山姥切を突き放すかのように、横を通り過ぎ背を向け部屋を出て行く。その手前、一言残した。
「生きているぞ、あの男。選ぶのはお前だ」
耳の奥へと入り込んだ言葉は、素直に山姥切の中へ入った。
「みかづ……ッ」
山姥切が振り向いた時には、既に三日月達の姿はなくなっていた。――選ぶ。山姥切はボロボロの身体を見つめて、もう一度理仁の方へと視線を向けた。信じたくない、受け入れられない。手は震え、唇も震え。血が滲むほどに下唇をまた噛んだ。
それでも足を一歩、また一歩と進めた。生きている。ぐるぐると混乱する頭は未だ整理できず、けれど時間は無限ではないということ。選択肢も少ないということ。
山姥切はしゃがみ込んで、悲痛な表情で理仁の頬を撫でた。体温はほぼ感じられなかった。頬に触れた手は少しずつ下へ伸び、理仁の心臓部分へと触れる。