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刀剣乱舞 盤上のクロッカス

第11章 memory



「……ッ」


 絞り出した声は、確かに山姥切自身の声だった。いつの間にか瞳の色は、美しい空色に戻り大粒の涙を流していた。ただ、まだ片目だけ赤い色を残したまま。
 それでもと、山姥切は理仁の頬に手を伸ばした。そっと、優しく撫でるが数度撫でた後、その指は震え出す。何かを感じ取ったのか、山姥切は辺りを慌てて見渡した。部屋の隅に、理仁の姉だった人が倒れていた。相変わらず、人形のようだ。

 山姥切は這いずるように、理仁の姉へと近付いた。触れた肌は冷たく、生きているとは言えない。けれど山姥切は、ぎゅっと女の腕を掴んだまま声を荒げた。


「あんたはどうして一人で闇落ちしたんだ!? あんたの刀剣はどうした!? 俺は……俺は……ッ、どうしてこんな……」


 彼女が答えることはない。瞳孔にも動きもなく、本当に人形か死人のようだ。


「哀れだな、山姥切国広」

「……っ! その、声は……」


 部屋の入り口に人影が一つ。腕を組み、壁に凭れ掛かりながら目の前の光景を静観していた。青い着物、美しい三日月の打ち除け。


「よもや、忘れたとは言うまい?」

「三日月宗近!!」

「ははっ、きちんと気で覚えていたようだな。うん、理仁は死んだのか?」

「死……」


 その言葉を耳に入れると、山姥切は目を見開き頭を抱えて蹲った。三日月は深く溜息を吐くと、理仁へと近付いた。


「愚かだな、人も刀剣も。何年経っても変わらない、何年経とうと学ばぬ。欲は深く、浅ましく。等しく罰を受けながら、やがて地獄へ落ちていく」

「……ッ、何が言いたい……。俺を殺すか!?」

「いいや。俺にそんな権利はない。ただそうだな、全ては俺の責任でもある」

「……は?」

「多くは語れん。時間もない、俺は……そこにいる"主"を連れて行くために来た」

「……主?」


 三日月の視線の先には、山姥切のすぐ目の前にいる女に向けられていた。つまりは、理仁の姉にだ。

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