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刀剣乱舞 盤上のクロッカス

第11章 memory



「理仁……様?」

「え、理仁!?」


 長谷部と彰人が振り返れば、荒く息を繰り返し今にも気をやりそうな瞳で、山姥切だけを映す。


「ああ畜生……目の前が霞む。この……っ、大馬鹿野郎が」


 理仁はライフルを杖代わりにするように、何とか立ち上がる。しかし、既に足はがくがくと震え今にも倒れてしまいそうだ。駆け寄ろうとした彰人だったが、長谷部をそれを阻む。


「長谷部!!」

「彰人様、待って下さい。お気持ちはわかります、ですが今動いてはいけません」


 長谷部の視線の先には、理仁を凝視している山姥切だ。未だに彼を取り巻く闇は晴れず、深い深い瘴気が山姥切を満たす。それは理仁の姿を確認しても、同じことだ。

 理仁は辺りを確認する。近くに自らを追いかけて来た政府の男が死んでいるのを見つけ、眉間に皺を寄せる。理仁はずるずると身体を引きずるように、山姥切へと近付いて行く。


「彰人……悪い。一期と三日月を頼めないか? 心配なんだ」

「……理仁っ、その怪我で何をするつもりなんだ! 無理だって!! ここは俺達が……っ」

「いいから、頼む。お前にしか、頼めないんだ」

「……彰人様、行きましょう」

「……ッ、死んだら一生恨む!!」


 そう捨て台詞を残すと、彰人は長谷部を連れて慌てて部屋を飛び出した。山姥切は最早理仁にのみ意識を向けている様子で、二人の存在を既に無視していた。

 理仁は時々酷くむせ、口元を抑えた掌にどろっと血を吐き出した。山姥切の姿が二重に見える。理仁は自らの下唇を噛んで、意識を何とかここに繋ぎ止める。普通の人間であればもう動くことさえままならないほどの傷を負いながら、それでも足を止めはしない。

 瞳には常に光が宿り、この現状だというのに絶望の色をけして滲ませない。

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