第11章 memory
闇落ちした山姥切を前に、長谷部と彰人は身体を強張らせて対峙していた。山姥切が焦点の合わない赤い瞳で刀を握り、彼らへ向かい走ってくる。長谷部は背に彰人を隠し刀を構えると、襲い掛かる。何とか辛うじて受け流すものの、思ったより山姥切の刃は早い。
「くっ……! 彰人様!! 理仁様を連れて、早くここからお逃げ下さい!!」
「何言ってんだお前! 俺がお前を見捨てるわけねぇだろぼけっ!」
「俺一人では、とてもじゃありませんが……ぐっ、無理です! ですから早く!!」
「うるせぇっ! 一人で無理なら……っ」
彰人は背負っていた刀を抜くと、長谷部を援護するように山姥切の刃を受け流す。
「彰人様!!」
「てめぇは俺の大事な近侍なんだよ! 一人にさせるかぼけっ!!」
「二度もぼけって言わないで下さい!!」
「お前が馬鹿だからだろうが!」
闇に呑まれ堕ちた山姥切は、通常の倍くらいの速さで二人を追い詰めている。もう彼の瞳は、敵も味方も見えていない。
何とか食い付いていた二人だが、山姥切はそれをあざ笑うかのように二人の刀を薙ぎ払った。二本の刀は宙を舞い、部屋の隅に刺さる。
「彰人様!!」
「……っ」
長谷部は彰人を庇うように、自分の中へと抱き込んだ。
「オワリダ」
――銀色の銃弾が振り下ろされた山姥切の刃を、弾き押し戻す。
大きな衝撃を受け、山姥切は仰け反ってしまい長谷部と彰人から引き離されてしまう。一発の銃弾により。
「……?」
山姥切は首を傾げ、銃弾の放たれた位置へと視線を向けた。大量の血だまりの中、大きなスナイパーライフルを構えた男の姿があった。その人物を視界に入れた途端、山姥切は苦しげに唸りながら頭を抱えた。
「……ああッ、アアアアッ!!」
もう一発、スナイパーライフルの銃口から煙が上がり銃声が響く。銃弾は更に強く刀身を弾くと、その拍子に山姥切が手を離したことで刀は遠くへと飛んでいった。その光景を視界の端に留めていた長谷部が、驚いたように口を開く。
そんなはずは、あり得ない。そう言いたげに。