第11章 memory
「ひっ……く、うあ……っ……ぐっ」
「……? 誰か、いるのか?」
誰かの泣き声が聞こえてくる。俺は不思議と、その声を聞いたことがある気がして足を進めた。正直何処を向いても真っ暗で、本当にこのまま進んでいいのかさえわからなかった。泣き声を頼りに、俺は身体を引きずるように歩き続ける。
暫くすると、ぽつんと誰かの姿が浮かんで来る。俺はその姿を確認すると、大きく息を吸って叫んだ。
「……――国広ッ!!!」
あれは国広だ、きっとそうだ。見慣れた布、あの服装。三角座りで蹲って膝に顔を埋め泣いている。顔なんて見なくてもわかる、別の山姥切国広なんかじゃない。あれは確かに、俺の知る国広だ。
「国広っ! 国広っ!!」
無我夢中で走った。痛い、体中痛くて今にも倒れてしまいそうだ。それでも俺は、もつれそうな足を必死に動かして走って叫んだ。
「国広なんだろう!? どうして、こんなとろこに……っ」
「……あっ、う……んぐっ」
「もう大丈夫だぞ、国広……国広っ」
ようやく彼を目の前に捉える。すると、国広が顔を上げる……――驚いた。彼の綺麗な空色の瞳が、真っ赤に染まっていたからだ。
「国広……ッ!」
どうでもよかった。それでも俺は、こいつは確かに国広だと思ったんだ。ならそれでいいじゃないか。俺は傷だらけの身体を押し付けるように、国広を抱き締めた。
「え……あ……」
「はぁ……いっ……くそ、傷が痛む。はぁ、国広?」
「……あ、ああ……」
「馬鹿だな。俺はここだよ、どうした? 怖いことでもあったのか」
抱き締めた国広の身体は震えていた。理由はわからないし、何故国広がここにいるのかも俺にはわからない。ただ本能的に、今こいつを抱き締めてやらないといけない気がした。それ以上の理由はいらないと思えた。
「あ……俺、俺は……」
「うん」
「俺は……主を、主を……殺したんだ。殺してしまったんだ」
「……うん」
俺の事なのか? そう一瞬思ったが何となく違う気がした。そっと、背を撫でてやる。