第11章 memory
「おーい、もういいのか?」
外では田頭さんが車で俺を迎えに来ていた。理由は簡単だ。俺は……――審神者になることを決意した。
「ええ、もういいんです」
田頭さんは煙草を咥えたまま、何食わぬ顔で俺に近寄ると一枚の茶封筒を渡してきた。
「ん、新しい名前を発注しておいた。確認しておけ」
「……宝条、理仁」
「そう、お前は今日から宝条理仁。この後の手続きは、また追って連絡する。宝条、お前が良ければ家まで送るが? どうする?」
「お願いします」
「あいよ」
もう当たり前の日常は失われた。姉さんがいなくなってから、とっくに俺の欲しかった未来は閉ざされていたんだ。俺はただ、姉さんと……静かに暮らせたらそれでよかった。生活が苦しくても、姉さんが笑っていてくれるなら俺はそれでよかったんだ。
過去は取り戻せない。無論、変えることなど出来やしない。俺は残酷にも、これから歴史を変えようとする奴らを殲滅する側に立つ。滑稽だ、結局は姉さんの後を追っているのと何も変わらない。だがそれでも俺は、真実を知りたかった。
――何故、姉さんは死んだのか。
その明確な理由さえ知れたなら、あとはどうだっていい。そう、どうだって……。
俺は田頭さんの車に乗り込んで、平穏な生活を自ら捨てた。
意識が俺の中に戻ったと同時に、鋭い痛みと闇だけが俺を包み込んだ。
「いっ……。ここは?」
問いかけたところで、誰も返してはくれなかった。つまりここには、俺しかいないということだ。なんてことだ。他の奴らは大丈夫なんだろうか? 一期や、三日月は……。
「この空間は、一体なんだ」
痛む身体に鞭打って、傷口を押さえ立ち上がる。ああ、目の前がくらくらする気がする。俺は果たして死んだのか? それとも生きていると言えるのか?