第11章 memory
「××、紹介するわね。この人、時の政府で社長さん。戸倉さんよ」
「初めまして、戸倉と言います」
「……初めまして」
胡散臭い笑みを浮かべたスーツ姿の男が家に来た。俺を交えて、審神者とは何かどんな仕事なのか給料はとわけのわからない話を始めた。審神者? 歴史修正者? こいつは何を言っているんだ。アニメや漫画の世界じゃないんだ、寝言は寝て言え。
「それでね、以前××には言ったと思うけど。私ね、このお話受けようと思うの」
冗談だろう? そう言おうとして、姉さんの顔を見たら何も言えなくなってしまった。黙って見送ってくれ、そういう顔をしていた。無力な俺にどんな言葉があれば、唯一無二の家族を引き留めることが出来たのだろうか。
俺はこの目の前にいる見知らぬ男の巧みな手により、姉さんを失う事となった。
「私が必ずお姉さんの身の安全を保障するよ」
「だからね、一人でちゃんとお留守番出来るわよね? 貴方は一人で何でも出来てしまうから、お姉ちゃんの手は必要ないわね。いい? しっかりと勉強だけはするのよそれから……」
姉さんは最後に俺を抱き締めて、こう言った。
「世界で一番、愛しているわ」
俺は受け入れるしかなかった。
数年後――姉さんは死んだ。そう政府から送られてきた一通の手紙に記されていた現実。仕事がよっぽど忙しかったのか、姉さんは審神者になってから一度も俺に会いに来なかった。しかし必ず決まった日に通帳を確認すれば、お金が振り込まれていた。ただ、それだけが唯一姉さんが生きている証だった。
家に、再び政府の人間が改めてやってきた。その男は、田頭と名乗った。
「おう、初めまして。酷なこと言うようであれだが、これが現実だ。受け入れてくれ。それと……」
田頭さんは一枚の紙を俺に渡してきた。文章を確認すると、そこには「審神者申請書」と記されていた。俺はこれを一度だけ見たことがある。そう、姉さんがあの日……戸倉という男の話に乗って契約書にサインをした。これが、それだ。