第10章 god
「だからこんな世界、ヒツヨウナイヨナ……?」
一気に辺りの空気が重くなり始める。息が詰まりそうなほど、黒く濃い霧が室内を満たし始めた。同時に重い扉が音もなく閉ざされ中にいた者達を、けして逃がさないとでも言うように閉じ込める。
「おい、山姥切……お前どうし……」
「彰人様お待ち下さいっ!! この気配はっ」
瞬時に何かを感じ取ったのか、長谷部は主である彰人の腕を引き自らの背へと隠した。長谷部は抜刀すると異常な淀んだ気を発している山姥切を睨み付けながら、刃を向ける。山姥切はそっと理仁を床に寝かせたかと思えば、不気味なほどゆらりと立ち上がった。
俯き肩に刺さっていたナイフを抜き取ると、その辺へと投げ捨てる。
「ハハ……アハ……ハハハッ」
山姥切は構える長谷部には目もくれず、部屋の入り口付近でがたがたと震えている男へと近付いて行った。すらりと、刀を抜いて。
「や、やめろ……来るな付喪神!!」
「ヤカマシイ……キエロ」
山姥切が一振りすると、男の首が容易く飛んだ。鬱陶しそうに血を払うと、山姥切は喉を鳴らして笑う。その様を見て、長谷部は額に冷や汗を滲ませていた。柄を握る手さえ、汗ばんでいくような気さえした。それくらい、緊張で強張る。
今まで感じたことのないような、強い憎悪。それを身に纏っていたのは……山姥切だった。
「山姥切、貴様……! 付喪神でありながら、魔に堕ちるかっ!?」
「堕チル? オカシナコトヲ言ウ」
ぐるりと長谷部へ振り返った山姥切の姿を見て、長谷部は恐怖で身が震えるのを感じた。
「俺タチハ、神ナンカジャナイ」
金色の髪は黒く染まり、空色の瞳は赤黒く何処までも”闇”を写し込んで狂気に支配されていた。