第10章 god
「理仁……理仁、俺が……わかるか?」
ようやく自らの腕に理仁を抱き締めると、山姥切は崩れ落ちるようにその場に座り込んだ。肩に酷い痛みが走る。突き立てられたナイフは未だその場に留まり、じくじくと彼に痛みを与え続ける。引き抜くことも忘れ、山姥切は安堵したように理仁をぎゅっと抱き締めた。
「ああ……なんで、こんなに……俺達は違うんだろうな」
その声は震えていた。温かな涙がぐっしょりと顔を汚して、滴はぽたりと瞼を閉じたまま返事をしない理仁の頬へと流れ落ちる。室内には最早、山姥切の独り言しか聞こえてこない。
「目を、目を……開けてくれ理仁……俺はまだあんたに、何も返せていないんだ。あんたがくれた優しい手を、それに応えられるだけの力も何も示せていない。こんなになるまで……あんたは、そこまで姉のことを想って、必死だったんだな……ごめん……ごめん……なさいっ」
溢れる涙は理仁への想いも混ざって、二人の頬を濡らし続けた。
痛みも苦痛も、大切な者の前ではないのと同じに感じられた。どんなに傍に居ても、同じ時を過ごせても。分かり合えない、本音を読み取ることも出来ない。もどかしくて、堪らなく切なくて。山姥切の中には今、刀の時には味わえなかったであろう様々な感情が流れ込んでいるのだろう。
言葉に出来ない想いを涙に変えて、冷えた手で理仁の頬を撫でた。
「理仁……俺は、あんたがとても大切だ。好きなんだ、あんたが。どうしようもなく……あんたの手だけが欲しくて、また差し伸べて欲しくて。でも今度は、俺があんたに手を差し伸べるから……そしたら、取ってくれるか? 握ってくれるだろうか」
山姥切は理仁の頬を両手で包み込むと、額同士をくっつけて誰にも聞こえないような声で呟いた。