第10章 god
「……――ッ!!」
声にならない悲鳴が、山姥切の喉を通り抜ける。痛みで目を見開き、呼吸が荒くなる。男はにやりと笑うと、ナイフを突き刺したまま離し、空いた手で細い首を絞め上げた。
「何が付喪神だ……神の出来損ない共めっ!! 大人しく私の下に降れッ!」
更に強く締め上げた……――その刹那だった。
つんざくような硝子の割れる音が白い部屋に響き渡った。がらがらと床に崩れ落ち、耳を塞ぎたくなるような騒音が男の意識を山姥切から外させた。
「一体何事だ!!」
男が振り返った先には、大きな水槽は無残にも砕かれ大量の水が床を浸水させていた。男はまるで蛇に睨まれた蛙のように、突如現れた人物に動揺と共に口元を歪めた。その拍子に、男の手から力が抜け山姥切を解放する。
割れた水槽の前に佇む男は、漆黒の闇を思わせる黒髪を揺らし理仁を腕に抱いていた。黒曜石の瞳が、蛇の瞳のようにぎちぎちと男を絡め取るように睨みつける。小さく男は「ひぃッ」と悲鳴を上げた。
「俺の親友に……よくもこんな真似してくれたな。てめぇ、ただで済むと思うなよ」
「お前は……彰人君かぁ……ああそうか、佐伯の奴。また酷い真似をしてくれたものだね。あの子は本当に……使えない……」
山姥切は放心状態になっている男の胸倉を掴むと、先程のお返しと言わんばかりに容赦なく顔面を殴り付けた。そのまま力任せに部屋の入り口の方へと、投げ飛ばした。
「……理仁……」
彰人に抱かれている理仁を見つけると、山姥切はふらふらと近付いて行った。彰人は自ら山姥切の方へと近付くと、そっと……理仁の身体を山姥切へと預けてやる。