第10章 god
光の刃が男の首を狙う――しかし、一歩届かない。山姥切をあざ笑うかのように、男はけたけたと笑いながら軽快に攻撃を避け続ける。単調になり始めた山姥切の動きに、僅かな隙をつくように男が山姥切の腹を思い切り蹴った。
それにより、山姥切は勢いよく吹き飛ばされ大きく後退する事となる。山姥切は吐き捨てるように叫んだ。
「人間は身勝手だ! そうやって自分のくだらない理想のためにと、誰かの命を重んじることも忘れて弄び未来を奪う!! 俺達は、理仁は……あんたなんかの道具じゃないっ!」
「ふっ……はははっ! だからどうした? それがなんだって言うんだ? 誰だって自分が一番可愛い。自分の理想のために、他人を利用として何が悪い? 自分の理想を叶えることが出来るのは、他人じゃない。自分だけだ」
男はそう言葉を放つと、ぐっと拳を構え山姥切へと襲い掛かる。男の行動を読み取れなかった山姥切は寸でのところで交わすも、それさえも男に先読みされ同じように思い切り蹴り飛ばされた。先程よりも強い痛みに、山姥切は受け身を取ることも出来ず床へと身体は叩きつけられた。
「ぐあ……ッ」
「私は私のためだけにどんなものも利用する! 誰が私を蔑もうと、罵ろうと関係ない。どうせ……勝てば全て、正義になる」
男はゆっくりと山姥切に近付くと、痛む箇所を抑えながら立ち上がろうとする彼の髪を引っ掴んで無理矢理上を向かせた。
「……くッ」
「はっ……! いい顔じゃないか山姥切国広。私の理想になりなさい。永遠の時を理仁君と生き、新たな神となるんだ。今に絶望しろ! そして願え!! 無力な世界から全てを救いたいと、力を求めて闇に堕ちるんだっ!」
男は懐からサバイバルナイフを取り出すと、容赦なく山姥切の肩へと突き立てた。