第10章 god
「理仁は……生きてるのか!?」
「さあ、どうだろうね? まあ死んでいたとしても、魂はここにあるのなら特に問題はないさ。君も来てくれたしね?」
すると男は抱いていた女を興味がなくなったかのように、部屋の隅っこへと放り出した。その時に一瞬見えた顔は、何処か理仁に似ている気がして背中がぞわっとしたのを感じ取る。どうしたって気分の悪い光景と、最悪の場所だ。
「あんた、政府の人間か……っ? どうしてこんな卑劣な真似をする! 一体理仁が、あんたに何をしたっていうんだ!!」
「何もしていないさ。ただそうだな……敢えて言うのであれば、部屋の隅に転がっている理仁君の姉について、彼が執拗に調べすぎて真実に辿り着いてしまったから。とでも」
「……理仁の、姉……?」
再び山姥切の瞳は、先程男が隅へと放り出した女へと向けられた。女の顔に生気はなく、目も虚ろで焦点はあっていない。それだけではない、山姥切が付喪神だからこそ感じ取れるものがある。その女の身体は紛い物に思えて。まるでただの入れ物に、魂だけ宿らせたような……。
そこまで考えて、山姥切は鋭く男を睨み付ける。だがその表情でさえも、男からすれば愉快な光景らしい。
「ははっ、刀剣も主に似るというやつかな。君のその表情、理仁君が初めて彼女を見た時とよく似ている気がするよ。ああでも素晴らしいことだな……これで私の研究も、ようやく終焉を迎える」
「あんたのつまらない研究のために……俺の主を、巻き込むんじゃない……ッ!!」
山姥切は怒気の含んだ声で叫ぶと、抜刀し男へ向かい駆け出した。冷たい地を蹴り上げ、瞳に怒りの炎を宿しながら。怒りに任せた刃は、意図も容易く男に避けられてしまう。それでもこの込み上げる熱を抑える術がわからなかった。