第10章 god
「いてて……なんだ急に」
山姥切が打った箇所を摩りながら、起き上がる。だが辺りは薄暗く、一体ここが何処なのかわからない。辛うじて淡い光だけが室内を照らしていた。徐々に目が慣れ始めた頃、山姥切の目に飛び込んできたの驚愕の光景だった。
「なんだ……これは」
気味の悪い水音、大きな筒状の水槽がいくつも。その中には――人間が閉じ込められていた。
「おいあき……」
山姥切がいるはずであろう彰人達の方を振り返ると、彼らはいなくなっていた。この場所に今いるのは、自分一人だけとなっていた。引き剥がされた? それとも散り散りになってしまったのか? 何にしても、考えたところで状況は変わらないだろう。
ゆっくりと立ち上がり、歩き始める。ただ無意識だった、この先に求める者がいるのではないかという予感にも近かった。山姥切は必死に重たい足を動かして、気味悪い水槽を通り抜けて前へ前へと走り出した。
「理仁……っ、今お前は何処にいる?」
あの時聞こえた声は、もう聞こえなくなっていた。確かに届いた、ここまで。そこで初めて彼の身に、何かが起きていることを理解したのだ。急がなくては、少しでも早く彼の元へ。
前方に大きな扉が現れる。その扉は、奇妙なことに開いておりそこから淡く白い光が漏れ出していた。この先に何があるとしても、最早ここまで来てしまえば選択する余地などなかった。思い切り走ったせいで、山姥切が常に取れないように深く被っていた布は取れ、彼の金色の髪が露わとなる。
――飛び込んだ先には、真っ白な世界だけが広がっていた。……静寂に包まれ、四方八方白い壁で覆われている。