第10章 god
「……へし切」
「……」
山姥切の声に、長谷部は反応しなかった。
「さて皆さん。宝条さんの座標特定なのですが、彼が身に着けているピアスが特殊な物なので、それを元に出した座標になります。もし身に着けていなかった場合、到着した際に彼はいないかもしれません。いいですね?」
「準備は万端だぜ!」
「ふん……」
「山姥切さん、他の刀剣の方々には俺から事情を伝えておきますので、遠慮なく宝条さんの元へ向かって下さい」
「言われなくても、そのつもりだ」
「では……」
佐伯が作ったゲートに手を翳すと、淡い海色の光に中は満たされていた。異様な空気感に、自然と緊張が走る。それを振り払うように、山姥切は先陣切ってゲート内へと飛び込んだ。
「いってらっしゃい。ご武運を」
彰人も長谷部を連れ、山姥切の後を追いゲート内へと飛び込んだ。三人が光の中に消えていくと同時に、瞬時にゲートは閉ざされた。
本丸には怖くなるくらいの静寂が包み込み。まるで嵐の前触れのような静けさへと変わっていった。
光は七色にチカチカと点滅して、体内に大量の不快感が襲い掛かる。特殊なゲートというだけはある。身体を駆け抜ける嫌な感覚の正体まではわからない。ぐるぐると脳内には見たくもない過去の映像が早送りのように流れ込んでいく。山姥切が頭を抱えた時、背後から背中を思い切り蹴られた。
「いっ……何すんだあんた」
「意識保て、生きて理仁を助けたかったらな」
「それはあんたもだろう……がっ!」
「うぐっ!? てめぇっ、今俺の腹容赦なく蹴っただろう!?」
「山姥切貴様……俺の主に何をする」
「こんなところで抜刀するな、酔うぞへし切」
「長谷部だ。黙れ山姥」
「山姥切だ」
「お前らうっせぇんだよっ!!!」
口論を重ねている内に、いきなり開けた場所へと身体は投げ出された。突然の事態に受け身を上手く取れず、冷たいコンクリートの床に叩きつけられる。